INTERVIEW

伴瀬朝彦×松石ゲル

対談第三弾は名古屋市金山にて、Alfred Beach Sandalのライブ終演後に行われました。『りぼん』がレコーディングされた場所も、名古屋で出会ったゲルさんのスタジオでした。ホライズンギター担当伴瀬朝彦が、エンジニアでありドラマーの松石ゲルさんと録音の裏話などをおはなしします。何故ホライズンは名古屋へ向かうのか?何故名古屋は彼らを暖かく迎えてくれるのか?


(録音機を準備、覗き込むゲル氏。)
伴瀬朝彦(以下 伴):あ、機材にはうるさい?
松石ゲル(以下 松):機材には(笑)。
伴:こういうの持ってます?
松:こういうハンディレコーダーみたいなのはないです。もうちょっとごついのを持ってるんだけど。
伴:ゲルさんの機材って基本ごついですよね。
松:ごついですかね、古いからね。
伴:古いゴツイ。
●ではゲルさんとホライズン山下宅配便の出会いあたりからお伺いできますか。
伴:名古屋でしか会ってないからゲルさんも分かんないですよね、そこまで、ホライズン山下宅配便がどういうものなのか。
松:ああ、真の姿?(笑)
伴:はい、真の姿がどういうものなのか。最初にゲルさんに会ったのがあれですよ、非凡パンチ。ホライズンが初めてKDハポンでやった時かな?「対バンこういう感じです」ってモモジさん(※)からメールが来て、『松石ゲルと非凡パンチ』って名前だけでこれはすごいの来たよ~と。ゲルさんのバンドのネーミングは日活みたいな感じですね。
(※武村モモジ。鶴舞KDハポンのスタッフであり、スティーブジャクソンのベース。ホライズンが名古屋へ行けるのはこの人のおかげである。)
松:そういうネーミングを常にストックしてるんですよ。思いついたら携帯にメモして。
伴:それでいっぱいやってるんですか?「この名前使ってないからやろう」って。
松:(笑)さすがにそこまではないけど、「何かやってください」って言われたらじゃあこの名前使おうとか。
伴:常に準備をしてあるわけですね。
松:そうそう。非凡パンチも結構前からあっためてあった名前なんだけど。
伴:いい名前ですよね。覚えてるのが、リハの時にベースとゲルさんしかいなかったんですよ。
松:そうそう、他の人、仕事で来られなくて。
伴:そんなの知らないからこういうバンドなんだと思って。すげえかっこよかったの。やべえかっけえー、この土着な感じ!って。すげえびびってたんだけど、いざ本番になったらサックスとかピアノ入ってて「あちゃーっ」てなって。
松:あれ?
伴:いや、更にすごいと。なんだよ~!ってなった。いいものは人数足りなくても分かるんですよね。その更にすごい衝撃を、いまだに覚えてるんですよ。
松:あれ苦し紛れにやったバンドで。モモジさんに「なんか出てください、なんでもいいから」って言われて。僕たくさんバンドやってたから、「ゲルさんがらみので」ってお願いが来て。僕のやってるバンドではスケジュール合わなかったので急遽寄せ集めて、しかもセッション出来るような簡単な曲で、作曲は僕なんですけど全部一日で考えてやったんです。
伴:曲自体を覚えてないけど、壮絶だったのは覚えてる。空間が歪んでいた。

松:ほんと?それを言うなら僕のほうの衝撃度もすごかったですよ。
伴:初めての時ってホライズンは二人じゃありませんでした?違うかな、シラフ(MC.sirafu)とかいたのかな?
松:初めて観たのは二人だったかな、それともその前に観てたのか、記憶が曖昧だけど最初観たときは確か二人で、俺はもう、「これやべぇ!」と。
伴:二人編成でそう思ってもらえたのはすごいですね。
松:二人だからすごいって思ったとこもあったのかも、最初は。二人でこれやっちゃうのかって。バスドラ踏みながらね。
伴:あれも苦肉ですからね。
松:お互い苦肉でやってたんですね。
伴:俺のゲルさん対バン史で言うと、最初に非凡パンチでやって、次にGUIRO。くぁー、またすっげえの来たよ、と。これでゲルさんが関わってるやつは絶対すごく良いという確信に変わり。で、その次BUILDING来ちゃったから。「名古屋イコール松石ゲル」になってますからね。
松:(笑)いやいやそんなことはないですけど。
伴:今でこそ普通にレコーディング頼んでますけど。全部すごいバンドだから。
松:ありがとうございます。
伴:いつか俺、個人的にハポンで企画したいなと思ってて、その時はゲルさんお願いします。「ゲルさんのなんか」で。ゲルさんのなんかが観たい。
松:いいですよ。だいたい、どのバンドも最初は寄せ集めみたいな感じで始めて、その中で長続きしそうなやつが残ってるみたいな。
伴:長続きしたのってどんなのですか?
松:ホット・ハニーバニー・ストンパーズは一番長いんだけど、あれも最初は一日限りのバンドのつもりで初めて。僕の始めるきっかけって全部そうかもしれないですね。とりあえずなんかやってみて、面白かったら続く。
伴:「とりあえずなんかやってくれ」ってお願いも結構されるんですか?
松:ストンパーズはそうじゃなかったんだけど、色々やってたら「頼めばなんかやってくれる人」みたいになってる(笑)。

伴:「頼めばなんかやってくれる」って、ありますよねゲルさんは。それで頼ったわけですよねホライズンも……違うか(笑)。レコーディングは違うか。レコーディングって何で最初お願いしたんでしたっけ?
松:なんか、GUIROの音が気に入って?
伴:そう、GUIROの音がすごい良いって話になってて、あれゲルさんちで録音したんだって聞いて。
松:それ実は謝んなきゃいけないことがあって。
伴:いや、その後の話はちょっと聞きましたよ。結局何千万円もする卓を使ってマスタリングしたってやつでしょ?
松:いや、違う。
伴:違うの?
松:あれねホントは、先にGUIROの自主制作のCDRが出ててそれは俺が録ってるんだけど、その後に出た流通してるやつ、あれは鳥羽修さんていう、カーネーションとかでギター弾いててエンジニアやってる東京在住の人が実はレコーディングしてるの。
伴:ゲルさんちじゃないの?
松:そう、俺んちじゃないの。
伴:土台から?
松:ごめん、今、衝撃の……。
伴:ちょっと!それがきっかけなのに!なんであんないい音で録れるんだろうって感動してたのに。
松:ごめん(笑)。騙したつもりじゃなくて、最初のCDRのことだと思って「ウチで録りました」って言っちゃった。
伴:あちゃー。
松:よく考えたら違うかなって。
伴:あちゃー。すっげえ音だもんなーあれー。まあ……どうしようこれ?
一同:笑
伴:まじで?でもニュアンスは一緒ですよね?
松:まあ……?
●ニュアンス??
松:どうなのかな。
一同:笑
伴:そういうことにしてくださいよ。ああいう音になるんだったら俺らも……って。最初に録ったのは『Hoca』でしたよね。そこで初めてゲルさんのスタジオ使わせてもらって。多分いきなり頼んだんですよね、黒岡が。使わせてもらうとなった時には何録るかも決まってなかったから、ゲルさんちで録るってなってから作った曲が結構あった。「録るんだったら何か作んなきゃ」みたいな。
●「ゲルさんちで録る」ってこと自体がしたかったんですか?
伴:そうそう、黒岡がまずそれをやりたかった。二日間でしたよね?みっちり。
松:みっちり。
伴:みっちり合宿で『Hoca』の6曲くらいを。ゲルさんちのスタジオは蔵を改造してあるんですよ。
松:昭和4年に建てられた蔵。
●へえ~!
伴:それだけで意気が上がってしまう。機材もいちいちレトロで、これ何に使うの?っていう、無駄にでっかい機材がたくさんある。

●『Hoca』は二日間で録って、『りぼん』もそんな感じですか?
伴:『りぼん』はベーシックだけ録らしてもらったんですよね。
松:早かったと思いますよ。
●『騎士』と『岸』以外……あとシングルも?
伴:りぼんのベーシックと、シングルは後日録ったんですよね。
松:でもどっちにしろ一日でベーシックは録り終えて。
伴:一日でベーシックを録るって目標でやって、二日目で黒岡の歌録りをしようという流れなの、いつも。
松:で、だいたいラフミックスまで終わるから、やっぱり早かった。
伴:他のバンドと比べては?
松:早い。
伴:早いですか。ここ大丈夫かなとか気になったりしないですか?こんなんでいいのかなとか。
松:それはないですね。OKラインがどのへんか分かんないっていうのもあるし。
伴:分かんなくてもなんとなく「これいいんだ?」みたいなのないですか?黒岡の歌ですかね?やっぱり。
松:(笑)特にそういうのは思いませんでしたね。
伴:いちいち思ってたらやってられないですかね。
松:そうなのかもしれないけど、演奏や歌に関してはむしろボツにしたテイクの中にもいいのあったのにとか思うくらい、良かったんじゃないですか。でもほとんどワンテイクかツーテイクでOKでしたよね。
伴:「今のいいですね」とか、ゲルさんそういうのほとんど言わないから。それがプロなんだろうけど、言わずにさっさとやってくれるから、そこらへんが信頼ができる。
松:言ったほうがいいのかな?
伴:いや、いいんですあれで多分。
松:基本的にミュージシャン側に任せてるからね。
伴:そうでないと、聞いちゃうから逆に。ゲルさんいいって言ってるしね、これでね!みたいになっちゃうから。
一同:笑
伴:ゲルさんがエンジニアとして一番すごいなと思うのが進行なんですけど。録音の進行に無駄がない。時間を無駄にしないっていうのがほんとに伝わってくる。部分的に録音を終えて「うーん」てなったりする間って絶対あるんだけど、そこにうまい具合に入ってきてくれて、「次のテイク行きましょうか」って、急かすまで全然いかないくらいの声かけしてくれる。時間の使い方っていうのがほんとすごいなって。
松:そうですか。自分では意識してなかったけど。
伴:「次行きます」って声がもう、操縦士みたいだから。
一同:笑
伴:録音する直前も楽器ピロピロいじって、どうしようかなー、これで行くかー、みたいなわけわかんない間の時にスパっと入ってくれる、切り方が素晴らしい。
松:録音やってると旬の瞬間みたいな時あるじゃないですか。今ノってるなって時に水差すようなことは言わないようにしようとか。ボーカルとかもマイク直そうかな~と思ったけど今録っといたほうがいいかなって思ったらそのまま行っちゃう。
伴:すごいですね。だから本当に信頼してます。

松:僕もホライズンのレコーディングしてて他のバンドと比べて凄いなと思ったとこは……
伴:聞きたい!
松:(笑)音の出し方がうまいっていうか。
伴;音のだしかた?
松:楽器をアンプの音とかドラムの音に順応させるのが早いっていうか。音作りに迷いがないっていうんですかね。倉林くんとか自分の機材持って来ないじゃないですか。
伴:基本手ぶらですからねあの男、最近。
松:スティックも持って来てなかった。
伴:前はスネアちゃんと持ち歩いてたんだけどな。最近箸しか持ってないです。
一同:笑
松:スティックも持って来ずに、それも驚きなんだけど、一応スタジオに僕のスネアがあってチューニングとかはやってください、みたいに置いてあるんですけど、倉林くんチューニングもしないんですよ。
伴:チューニングもしないの!?
松:ちょっとぐらいしてたのかもしれないけど、基本的にそのまま叩いてて。これでいいのかな?と思ったけど、すごいいい音出してて。
伴:それ順応してるってことですかね。
松:その中でいい音を探すのが上手いのかなって。
伴:単純にゲルスタの感じ好きなんじゃないですか、てっちゃん。だから特に何もしないんじゃないかな。
松:そこで叩いてみて、「ああ、なにもしなくていい」って判断するのが早いのかなと。
伴:そういう判断は早そうですね、てっちゃんは。
松:みんなそうだなと思って。伴瀬くんも、一回俺の変なアンプで録ったことあったでしょう。
伴:ACE TONEでしたっけ。
松:そう、あのアンプ俺は好きで他のバンドにも勧めるんだけど、採用されたことは一回もなくて。みんなちょっと音出してみて「んー、違う」みたいな。伴瀬くんはあれですごくいい音出してて。
伴:相性じゃないですかね。だいたい色んなアンプでみんなやると思うけど、似たような音には出来ますよね。そこまでシビアじゃないから。どのアンプでもそのギターの音はちゃんと出るようにはなってますよね。
松:そういう判断が出来るっていうのは耳がいいのかなって。このアンプでないとダメっていう人もいっぱいいるし。
伴:それはまた違う話かもしれないですけどね。
松:まあそうなんだけど、基本的に自分の音っていうのが分かってれば。
伴:そうですね、近づけることは出来ますからね。
松:そうそう、どんな組み合わせでも。そういうのが早いなと思って。
伴:それはちょっと意識してます。あのエレキギター使って14年ぐらいになりますけど、ずっと使ってきてるから、こうやればこんくらいの音になるぐらいの感じにはなってきてるから。
松:何年もギター弾いてる人がレコーディング中にいつまでもアンプいじくって「違うなー」とか言ってたりするからね。
伴:そうですね。そういうのは俺は分かんないけどな。
松:そういうとこがメンバーみんな出来てる。

伴:でも単純に機材を気にするようなバンドじゃないっていう……。
松:(笑)でも録り音も出してる音も、実際いい音だから。
伴:あそこの蔵がいいですよ、まず。環境が良くないとそれだけでちょっと不安になるから、更にアンプが違うってなったら不安で違う感じに聴こえてしまう。
松:ああ、精神的なものも大きいかもしれない。テンションが上がればそのぶん演奏も良くなるし。
伴:ありますからね、不安でどこいじっても全然こんな音じゃないって思ったり。たぶん実際のところそんなに変わんない。環境が嫌なだけなんですよ。
松:なるほど、そういう意味で言えばウチは珍しい環境ではあるから。好きな人はそこでアガってくれるのかなと。
伴:ゲルスタは蔵だけど、録音するブースと卓がドアで仕切られてて、ゲルさんは隣の部屋にいて、マイクで「次いきまーす」って指示の声だけ聞こえてくるの。
●ああ、ガラス張りとかではないんですか。
松:そうなんです。見えないってのがまたいいのかなって。
伴:すごい面白い。黒岡の木琴を録るって時、俺とゲルさんがブース側にいて音だけしか聴こえない状態でチェックするんだけど。ワンフレーズやってちょっと空いてまた次木琴入ってくる、ってフレーズを録ったのね。で「録りまーす」って木琴がぱーって入って、ちょっと空いて次のフレーズだ、と思ったら音が鉄琴に変わってんのね。
松:(笑)あったね。
伴:確かに中に鉄琴置いてあったんですけどね。びっくりして。
松:こっちから全く見えないから。
伴:だけどそのテイクが素晴らしくてOKになって『Hoca』の『ムバンポマ』に入ってる。マイクちょっと移動してるんですよね。
松:あれ自分でやったんだ?(笑)そうだよね、そうじゃないときれいに録れないもんね。
伴:見えないっつうのは面白い。
松:見えないから意志の疎通ができなくて、お互いGOサインが出るのずーっと待ってて無言が続いたりってこともあるんだけど。
伴:あれも面白い。
松:ほんとは見えるほうがいいんでしょうけどね。
伴:あの感じ好きですけどね。黒岡の歌録りとか見えないほうが面白い。何やってんだろう今、みたいなのありますよね、余計な音がしたりして。
松:なんかごそごそして歌ってんだろうなって。
伴:黒岡の歌録りはテンション重視だから。録音ブース側から聴いてダメだったら一回ガチャってドア開けて「もうちょっとはっちゃけた感じで!」って指示してドア閉めて、また録ってやっぱダメだなっつって開けて「もうちょっと普通にしようか?」って、いちいちドア開けて言う感じが面白い。

松:黒岡くんの歌録りのことで思い出したけど、結構歌のニュアンスにこだわりがあんだなと思って。
伴:はい、黒岡的に。
松:いや、伴瀬くんもさ、結構言ってたから。
伴:そういうとこで持ってかないと、黒岡じゃないから。普通に歌ってもらっちゃ困るんですよね。ホライズンの曲は難しいから普通に歌えないし。
松:そういうの聞いて、メンバーの中でしかわからないニュアンスがあるんだなと思って。俺が聴いてる分にはさ、今のテイク面白かったなーOKなんだろうなって思うのに、「その歌い方違うなー」とか言ってるから「ああ、違うんだ」って。何が違うのかはわかんないんだけど。
伴:しっくりくるかこないかだけだと思うんですけどね。共有はあんまりできてないと思いますよ。黒岡の歌に対してみんな持ってるイメージはそれぞれ違うと思うから。黒岡がどう汲み取るかってことだと思います。今良かったじゃんってなっても黒岡が「いや、もう一回」って言うことがすごい多いですね。
松:そうそう。
伴:結局録り直したやつがあんまり良くないことが多い。
松:そうだね、それはあったね、一発目が良かったとか。
伴:上手く歌おうとしちゃうんですよね。「今ちょっとフラットしてませんでした?」とかすごい気にしてて。フラットはもういいから。
松:(笑)そこを気にするなら他にあるだろうって俺もちょっと思ったんだけど。
伴:ゲルさんも思ってるんややっぱり(笑)。フラットフラットうるせえよって。
松:意外と音程のこと気にしてるんだなって(笑)。
伴:すごい気にしてるんですよ。ライブの時が一番うまかったりするんですよね。

松:うちで合宿で録ったじゃないですか。
伴:はい、パックでね。
松:パックじゃないんだけど(笑)。
●ゲルさんはレコーディング中に部屋を提供してくださってますよね。
松:単純に家の近くに泊まるとこがないし、東京から来てくれるから泊まりでやったほうがいい。うちも部屋が空いてるんで、他のバンドさんもそうなんですけど一部屋にみんなで寝てもらって。そうすると同じ屋根の下で共同生活をすることになる。
伴:それはでかいですよね。録音終わった後に夜中その話を出来たり。
松:正直な話、最初はちょっと不安があったんですよ。
伴:不安?
松:ホライズンの人たちと過ごさなきゃいけないみたいな。
一同:笑
伴:すいません……。
松:今は二、三回一緒にやってるからいいんですけど、最初はあんまり知らなかったから。ステージとライブの後にちょっと話したくらいの関係だったので。
●悪さされるんじゃないかとか?
松:この人たちは狂った人たちだと思ってたから(笑)。部屋の中で花火とかやり出すんじゃないか、とか。
伴:習慣が普通に狂ってるんじゃないかって。「なんかいけないことしました?」みたいな。
●それは怖いですねー……。
松:不安あったんですけど、実はすごい礼儀正しくて。他のバンドさん以上にね、ゴミはちゃんと片付けてくれるし、持って帰ってくれるし。
伴:一尊とかがしっかりチェックしますから。
松:普段は常識的な人たちなんだと。
伴:常識のカタマリですよ。
松:そのへんちょっとね、怖かったんだけど。ライブだけ観てたら、黒岡くんとか普通に会話出来るのかなってずっと思ってて。
伴:今知り合ったら全然話したくないと思うな黒岡。怖いだろうなー、普通に。
松:みなさんナイスガイで。
伴:マイトガイで。
松:マイトガイじゃない(笑)。

伴:結局『りぼん』は重ね録りは東京でほぼやって、ベーシックだけなんですよね、ゲルさんにお願いしたのは。ちょっと申し訳ない気持ちもあるんですが。
松:いやいや。東京の録音分もデータでもらって、こっちで合体させたりね。
伴:そうですよね。ゲルさんに合体してもらった上で阿部くんにミックスしてもらって、というとても面倒臭い流れになってる。
松:色んな人の手を経てできてるから、うちで録った音でもなく、俺としては不思議な感じで、でも興味深く聴ける。
伴:多分全然、ゲルスタっぽくない感じにはなってますね。
松:そうかもしれないですね、でもドラムの音とかウチの音だから。そういうのが面白かったです。
伴:そういう聴き方すると面白いかもしれないね。
●『Hoca』はそのまま?
伴:『Hoca』はそのままで、ほんとゲルスタって感じの音しますね。ミックスはてっちゃんと二人でしたっけ?
松:僕がミックスしたのを倉林くんがマスタリングするような形で。
●録った後って作業は遠隔ですよね?
松:そうそう。それならではの勘違いみたいなのもあって。そんなにムチャクチャ苦労はしてないですけど。
伴:その作業は俺は全然分かんないや。ちょっとションベン行ってきていいですか。

(トイレへ行く伴瀬)

松:今どれくらい?30分?面白い話ができなくて申し訳ない。
●いやいや面白いです、すごく。みなさん知らないことだから。ゲルさん今は幾つくらいバンドやってらっしゃるんですか?
松:パニックスマイルと、名古屋でベンベっていう10人組くらいのフェラ・クティみたいなバンドやってて、ちょこちょこしたの合わせると4バンドか5バンドぐらいは。自分のリーダーバンドってのはもうやってなくて、サポートというか頼まれてドラムやってる、みたいな。
●そうなんですか。最近は愛工大メイデンというのがあるんですよね。
松:(笑)よく知ってますね。
●これもいい名前ですね。
松:あれはもう、ふざけきってやってます。

(戻る伴瀬)

伴:コーヒーおかわりください。利尿作用がすごいな……。あと何か、あります?
●何でもいいですよ、世間話とかでも。
伴:世間話か……。世間知らないからなー俺もゲルさんも。ゲルさん出てないですもんね、外に。
松:俺の世間てあの地元の消防団とかになってるからね。
伴:そういうとこで俺、似たようなものを感じるんですよね、失礼ながら。
松:出てないの?
伴:あんまり出てないですね、社会とか知らないです。ゲルさんは社会知ってますか?
松:知らないです。社会人じゃないし、引きこもりじゃないけど……人とは触れあってるけど内を向いてることが多い。でも、伴瀬くんは都会のど真ん中に住んでるわけだし。
伴:ど真ん中じゃないですよ。
松:ウチみたいな田舎じゃないから。何もない田舎なんですよ、ほんとに。
伴:駅とかあります?最寄り駅。
松:最寄り駅はあったんですけど廃線になっちゃって、車じゃないともうどこにも行けない感じです。
伴:そういうとこ住みたいなー。
松:田舎は田舎でまた大変ですよ。
伴:でもあそこコンビニあるからいいじゃないですか。最初に行った時はなかったんだけど、二回目に行った時にどーんとできてて、「ヤッター!」って。
松:そうなんですよ、歩いて1分のとこにコンビニできて。
伴:これはデカイですよ、レコーディングする時には。
松:なかったころはほんと大変だったんですよ。
伴:コンビニでメシ買ってぱぱっと食ってすぐ出来るから。無い頃は車でメシ食いに行って、一時間後にやりますか、って。録音の途中だとすぐやりたいから、早く喰って帰ってやろう、早く早くみたいな。
松:夜、酒がなくなったらすぐ買いに行けるし。
伴:そうそう。コンビニって便利だなー。
松:コンビニに今、依存しちゃってて。一日に3回も4回も、たいした用事もなく行っちゃってるから。
伴:普段はレコーディングの関係の作業してることが多いんですか?
松:そうですね。今んとこそれが生業となっているので。
伴:そうですよねー、忙しい中ホライズンなんかがお邪魔してすいません。
松:そんなことないです。仕事をくださってありがとうございます。ホライズンはほんとに、ファンだったから。俺も好きなんだけど嫁さんが大好きで。すごい昔のCDRとか持ってるよ。
伴:奥さん、行ったら挨拶くらいで全然出て来ないから、不機嫌になってるんじゃないかと思ってましたけど。まあ子供さんもいるから忙しいだろうけど。
松:カーステレオのとこにホライズンが二枚ぐらい入ってて、昔のライダーキックとか聴いてますよ。
伴:すげえなあ、聴いてくれてんだ。これからも頼むことになると思いますので。
松:ウチでよければ。パワーアップしますんで。
伴:機材を?まあ、ああいう感じで行って欲しいですけど。ゴツゴツした感じで。パソコンも古くて、ファミコンが出る前のパソコンゲームみたいな画面ですよね。
松:でもあれ今、新しくなったよ。
伴:そうなのか……(がっかり)。文字とかがすげえ懐かしい。ブラウン管?
松:そう、あれは仕方なく使ってただけなんだけど。機材が古いというか、今皆が使ってるパソコンソフトのじゃなくてハードディスクのレコーダー、ごっついローランドのVSってやつで録ってるんですけど。 あんまり今使ってる人はいないです。一応パソコンソフトも持ってるんだけど、何故かそれが好きで。
伴:それがいいんですよ。機材とかエフェクターもいっぱいあるから、そこに行って選んで決めるみたいな楽しみがあるんですよ。だからてっちゃんもスティック持って行かないんだな。
●スティックって、それはゲルさんのものでスタジオの機材ってのではないでしょう……。
松:(笑)全然使ってもらって構わないんですけど。スティックも持って来ない人は初めてですね。それでちゃんと自分の音出してるんだから、びっくりですよ。
伴:まあ、びっくり人種ですからね。
松:(笑)みんな個性があって。ビートルズもそうだけど、みんな個性が強いじゃないですか、スーパーバンドは。
伴:スーパーバンドになりたいと思ってるんで。どんどん言ってください。

●しかしなんで名古屋ではこんな支持してもらえるんでしょうね。
松:えっ。東京では支持されてないの?
伴:名古屋はされてる気がするんですよ、東京でもまあ、されてないことはないですけど。最初にハポンでやった時「なんでこんなにウケるんだろう」って思いましたよ。大ウケして、あれスベってないなって。
●東京ではスベってたんですかね。
伴:反応が名古屋は違う。何故反応がいいのかは分かんないですね。
松:初めてこんなバンド観たって衝撃がすごかったですね。ほかに似たバンドがいないっていうか。
伴:ちゃんと奥を見てくれたのかもしれない、名古屋の人たちは。内に秘めてる可能性を。毎回、出し切れたと思ってないからね。
●そこ見てくれたのか。ハポンのお客さんだからこそっていうのはありそうですよね。
伴:あると思うけどね。
松:なんかね、因数分解できない感じがしたんですよ。
伴:バンドがですか?
松:バンドが。ひとつのバンド観ると、それが何で出来てるかっていう材料がなんとなく分かる、エモっぽいとこがあってとか、ポストロックから引っぱって来てるなとか。それがね、何で出来てるか分かんなかったんですよ。
伴:バックグラウンド的なものが。
松:そう、このバンドの素地が何で出来てるのかっていうのが。
伴:何なんでしょうねえ。
松:フランク・ザッパは好きなんですか?
伴:俺と黒岡と、一尊も好きですけど「ザッパみたいなのやろうよ!」とは言ってない(笑)。二人時代はそういうのやりたいって共通認識が少しあったかもしれないけど。
松:僕ザッパすごい好きで。ホライズンはザッパっぽいなと思ったけど、ザッパの影響あるのかな、ないのかな、もしかしたら全然聴かずにこういうとこ辿り着いたのかなあとか。
伴:意識してるとこもあるけど、意識しないでそうなってるとこはあるかもしれないですね。
松:そうだよね。それは訊けなかったんだけど、でも『ジョーのドマージュ』ってCDをウチで聴いてた時があって、ああやっぱり、と。
伴:やっぱ聴いてるんだこいつら、と。
松:ずっとそれを聴いてるとこが、普通のザッパファンとは違うなって。
伴:そのCD同じフレーズを何っ回も練習したりしてるんですよね。聴いてるだけで気が狂いそうな……それが音源になるって凄いですね。
松:そうですね。それでさえ面白いからね。ザッパ以外では?
伴:ホライズンでは60年代UKロックっていうイメージが個人的にはあります。僕がギターを弾くにあたって、60年代の匂いを出したいなというのが。まあ、根底ですけど。全編に渡ってその匂いを出したいっていうよりは、なんとなく根底に見えればいいなと。これをみんなが共有しちゃうとダメなんです多分。これを一尊もてっちゃんも同じような気持ちでやっちゃうとかなりダサくなっちゃうんですよ。
松:そうだね、おっさんロックみたいな。
伴:おっさんロックになりかねないから。みんなバランスを保ってくれてるんです。てっちゃんとかそういうの一番嫌いだから。だからたまにハズしてくるんですよ。
松:まあ、そこを狙ってちゃんとやってるわけだから。
伴:まあね、結果的にそうなってんですけどね、そこに黒岡が乗るっていう、それでバックグラウンド分かんなくなるんですよね。
松:僕がぐっときてるのは、僕も60年代好きだから、そういうとこでホライズンの根底にある、下に隠された60年代感っていうのに反応しちゃったのかな。
伴:そうですね、60年代、倉林以外は全員好きだから。
松:そのまま60年代やってたら俺もそんなに反応してなかったかもしれない。
伴:そうですよね、「懐かしいな」で終わっちゃう。たまに入ってくるからいいっていう。
松:伴瀬くんのギターはそういうとこあるよね。ワウを使った、ブルージーな。ペンタトニックっぽい。それが見え隠れしてるとこがいいんじゃないですか。
伴:どう変わっていくか分かんないですけどね。4人で面白いとこみっけられればいいと思ってるので。まあ、そんな変わらないでしょうけどね、スタイルは。変えられないでしょうけど。
松:そういう、混ざり合わないようなものが強引に混ざり合わされてるとこが。
伴:強引ですけどねー。ここはこうしようみたいな話は最近ほんとにしないから。そういうとこで、戦いたいですね。
松:意識的にか無意識にか分かんないですけど、異質なものを、倉林くんのような枠のない人を、引き込んでる。
伴:倉林のバックグラウンドって一番分かんないですよ。ドラムに関しては倉林、「ドラマーなんて知らん」みたいな感じですから。好きなドラマーいるの?って話をしたんですけど、「うーん、あだち充が一番好きですね」みたいな……。
一同:笑
伴:「あ、わかりました……」って。「そういう話はちょっと…」って感じでしたよ。
松:でも解りますね、ドラマーではないですね彼は。ドラマーなんだけど……たまたまスティック握ってあのポジションにいるけど、彼はそれで違うものを表現してるというか。
伴:ドラマーじゃないですね、表現してますよね。ホライズンで言うと黒岡と倉林が表現してて、俺と一尊が演奏してるって感じですね。
松:それは録音してても感じましたね。音楽的な二人とアート的な二人っていうか。
伴:倉林もアートとか思ってないだろうけど、結果的に表現部分を一番重要視してたりする。
松:言っちゃうと天然的なキャラというか。
伴:録音してても、その辺のバランスがいいなと。違う指摘を倉林が言ってくれるから音だけに専念できる。無意識に役割分担が出来てる。てっちゃんの意見はほんとに効くからな。意外と正論しか言わない。
松:一尊くんも結構ね、無口だから何も言わないのかなと思ってたけど、要所要所で締めてくれる。
伴:思うところっていっぱいあるんだろうけど、敢えて進行を見守って「これやばいだろ」ってなった時に何か言ってくれる、助け舟を出して道筋を正してくれる。
松:一尊くんが意見言うとみんな従うみたいな。
伴:それはあるなー。
松:そこ、「おっ」って思いましたけどね。
●だいぶ夜も更けましたのでこのあたりで。こんな遅くに本当にありがとうございます。

松石ゲル(まついしげる)
愛知県在住のミュージシャン兼レコーディング・エンジニア。ザ・シロップ、ホット・ハニーバニー・ストンパーズ、GUIRO等、数々のバンドで活動した後、GELサウンドプロダクションを設立。国内の様々なバンドのレコーディングを手がける他、映画・TV番組・CMの音楽なども数多く制作。最近では「渚ようこ」のアルバムをプロデュースした。またパニックスマイル、BEMBEにもドラマーとして参加している。
松石ゲルブログ http://ameblo.jp/the-syrup/

(TEXT:とんちれこーど)