INTERVIEW

黒岡まさひろ×磯部涼

お待たせいたしました、ホライズン山下宅配便『りぼん』発売記念対談最終回。大トリはもちろんホライズンボーカル担当黒岡まさひろ、そしてお相手はライターの磯部涼さんです。ほぼ初顔合わせともいえる二人の対談。小田さんも中盤から乱入のなぎ食堂にて、ホライズンの実態を探るディープな物語が今、語られます!


当たり年の78年
磯部涼(以下 磯):同い年なんですよね?
黒岡まさひろ(以下 黒):そうなんですよ。
磯:78年ってまわりに結構いますか?日本のヒップホップは78年が当たり年って言われてるんですよ。他のところでもそうなのかなと。
黒:多分、「当たり年」だと思うんです、学校行っても、いい同級生に恵まれてたし。下級生とか上級生とかあんまり面白そうじゃなかったですからね。
磯:それ、自分にとって当たり年ってことでしょ(笑)。でもお話ししないうちは、黒岡さんて年上だと思ってました。
黒:僕も磯部さんは年上だと思ってました。磯部さんのことは文章でしか知らなかったので、どういう人なんだろうと思ってずっと探してたんですよ。roji(阿佐ヶ谷)の忘年会の時、DJブースに4人くらい並んで磯部さんが紹介されたんですけど、どの人が磯部さんなんだろうと。で、TOIROCKの時に、いやらしくすり寄って行って。
磯:びびりました。
黒:その時は奥様がいらっしゃったので。人間、奥さんがいると絶対悪い奴にはならないじゃないですか。
磯:僕も黒岡さんに家庭があるのが信じられないですよ。妄想なんじゃないですか?
黒:ああ……いると思うんですけどね。
磯:誰か見た人いるんですか?家族を。
●はい。いると思います。
磯:「思います」って(笑)。
千葉県に住む
黒:どこ生まれですか?
磯:千葉の美浜区。殺伐とした街ですよ。最初の記憶にある風景が地平線なんですけど、そこがそのあと幕張メッセになる、大きな空き地で。何年も放ったらかしにされてたから底なし沼みたいになってて、クラスメイトがザリガニとりに行ったまま行方不明になって、そのまま埋め立てられたりとか。
黒:ほんとですか?
磯:ヤクザが死体を捨てにくる場所としてもある筋では有名だったらしいです。
黒:僕は西千葉にちょっと住んでまして。
磯:生まれも?
黒:岡山なんですけど、東京に行きかったんです。でも東京の国立大学は難しいので、千葉大学に。
磯:ああ、千葉大なんですか。
黒:そうです。これはさぞかし都会だろうだろうと行ってみたら、「あれっ?」っていうことになって。そうとうな田舎でしたね。行くとこないので、千葉のディスクユニオンに週に2回とか行ってました。学生の時は仕送りもあるし金を持ってますんで、そのときは、一ヶ月に4万円はレコードに投資できると勝手に決めていて、安いレコードが入荷されてくるのを待ち構えてました。
磯:幕張はさらに何もないですからね。しょうがないから毎日新星堂に行ってましたよ。何も品揃え変わらないのに。
黒:わかります。幕張はチャリンコ圏内ですね。
磯:西千葉から幕張、けっこう遠いですけどね(笑)。
黒:大学生って基本的に時間ありますから(笑)。バイトもそんなにしてなくて、交通費を浮かすため自転車で友人と新宿まで出たり。
磯:えーっ。新宿はすごい。
黒:行ったことに対しての満足感。
磯:だって帰れないでしょソレ。
黒:いや、帰れますよ。行って、すぐ帰ってました(笑)。
磯:何時間かかるんですか?
黒:そんなでもない、片道三時間ぐらいです。
磯:でも、幕張から渋谷まで出ると往復で1500円ぐらいかかって、その金でレコード1枚買えるし、映画1本観られるっていつも思ってたから気持ち分かるなぁ。千葉は何年ぐらいいたんですか?
黒:4年間プラス1年いたので、5年間。
磯:千葉のライブハウスは行ってました?
黒:数回しか行ってないですね。都心の大箱ばかり行っていました。とにかく、大学の時は、教育学部で美術をやってたので、美術を勉強していました。いろいろやりましたけど、彫刻の授業とかで、僕は鉄で立体をつくりたかったんで、溶接の免許とりに行ったりしてました。
黒岡のアルバイトそして大学卒業後
磯:バイトは何をやってたんですか?
黒:児童相談所ってとこで働いてました。
磯:夜回り先生的な?
黒:いや、家庭に問題のある子とか、何か事件を起こした子とか、何らかの理由で親と一緒に生活できない子とかが、一時保護されるために来るんです。バイク30台盗んだ子だとか。1歳から18歳まで、いろんな子が来ました。
磯:絶対変なあだ名で呼ばれたでしょ?
黒:その時はアフロヘアーだったんで、言われましたね。
磯:絶対あだ名は「モジャモジャ」でしょ。
黒:言われてましたねぇ。教育学部だったので教育実習にも行ったんですけど、僕はあんまり先生っぽくないので子供たちに好かれたんです。これは、僕、先生向いてるのかなって思ったんですけど、でも先生になったら、刺青も入れられない。万引きできない。アナルセックスもできない。とにかく制限される。
磯:反社会的なことは。
黒:できなくなっちゃうんですよ。裏でやるようになってしまう。
磯:表でアナルセックスはしないですけどね。
黒:それじゃあ自分のやりたい人生とは違うなって。胸がどきどきするのはアウトサイダーのほうだなと。
磯:それで、子供たちを蹴落として。
黒:蹴落としてってことは(笑)。とにかく制限されてはいかんと思って。制限されたら、死ぬと思って。
磯:僕、小学校の時に大好きな先生がいて。もともとはおばさんの先生が担任だったんですけど、そのひとは大嫌いだったんです。なんか人情味溢れる感じで。それで反抗してたら、その先生は心の病になって学校に来られなくなっちゃって、代わりに臨時講師が来たんです。
黒:ほう。ほう。
磯:僕、当時マンガを書くのが好きだったんですけど、その臨時講師のひとも漫画好きで色々教えてくれて。Gペンの使い方とかスクリーントーンの貼り方とか。それで、僕も図に乗って授業中に描いて、「描けたー!」って見せにいったら、さすがにその先生も怒って、ゴミ箱に捨てられたんです。で、「芸術作品なのにひどいじゃないか!」って逆切れして、そのまま教室を飛び出して家に帰ったら、放課後、先生が謝りにきてくれて。そこで友情が生まれたり。
黒:はいはい。
磯:半年ぐらい経ったら、前の先生が復帰したんで、そのひとはまた転任しちゃったんですけど。で、大学生の頃、同窓会があった時、ふと思い出してその先生の話をしたんですよ、「あの男の先生、いいひとだったなぁ」って。
黒:あ、男だったんですか。
磯:そう、丁度眼鏡かけてて、黒岡さんみたいでした。
黒:あー。教育実習に行った俺、ですかね?それ。
磯:多分違うと思います(笑)。そうしたら、同級生に「知らないの?」って言われて。その先生、次の赴任先で生徒にいたずらをして、捕まったらしいんですよ。
黒:あー。
磯:黒岡さんの話を聞いていて、その先生のことが頭に浮かびました(笑)。でも、前任の女の先生の方がいわゆる「いい先生」だったと思うんですけど、子供にとっては必ずしもそうじゃないんだよなぁって。
黒:響かないっちゅうかね。教えるってすごく重要なことじゃないですか。何もわかんない子供に、これは芸術的、これは芸術的じゃないって先生が決めていいのかとか。将来的にも決まってしまうかも……子供にとってみればたいしたことじゃないのかもしれないですけど、すごい重要な役割なんじゃないかって思うんです。
磯:授業と漫画とどっちが大切なのかとかね。その後の価値観を左右することになるわけですから。
黒:そういうのも教育実習中にはずっと考えてました。まだ小僧でしたし、わかんないことはいっぱいありましたからね。
磯:じゃあ黒岡さんの中では教育っていう概念が、大きいものとしてあったんですね?
黒:う~~ん?どうですかね?でも、児童相談所では想像以上にさまざまな家庭環境の子どもたちがいるわけですよ、「えっ!?」と言うような子供がいっぱい来る中で、何を教えていけばいいのか。一般的に言えば、ごはんはちゃんと食べるものです、授業はちゃんと受けるものですって言うけど、そういう段階でないし、でもそれ言ってもほんとなのかなって自分では思っちゃうんです。
人生は漫画家を挫折してから
黒:僕も漫画はめちゃめちゃ描いてたんですよ。
磯:やっぱりみんな描くんですね。
黒:岡山の街に言ったら無印良品のメモパットを10冊くらい買ってもらうのが楽しみで。それに漫画ずっと描いて、すごい量になりました。すぐなくなりまして、岡山にメモパッドを買いにいくだけって言う。
磯:僕も小学校に上がるくらいの時、お絵描き帖の山が自分の背の高さと同じになるくらい描いて、記念写真を撮りました。そのあと全部捨てられるんですけど。
●(笑)捨てる前に写真を。
磯:そのあと、高学年になると、不良っぽい子にノートを渡されて、これこれこういうの描いてくれって依頼されるようになったり。でも自分の好きなものを描きたいし、他のノートを買う金もないから、もらったノートってばれないように表紙に紙を貼って使ってたら、透けてて、「これ俺があげたやつじゃねえか!」って怒られたり。
黒:俺は高校まで描いてたんですけど……。
磯:あ、それは長いですね。
黒:はい。
磯:中学になっても描き続けるかどうかは分岐点ですよ。それ完全にマンガ家になるコースじゃないですか。
黒:うん?どうなんでしょう……?
磯:その時描いてたのはどんなものだったんですか?
黒:友達にウケるのはギャグでしたね。ストーリーものの。学校の先生が登場したり。覚えているのは、うんこを我慢することを心理的に描写したマンガが一番、秀作でした。「時間よ。はやくたて~」みたいな。話は変わりますが、僕子供の頃から授業中にトイレに行きたくなる子でしてね。うんこを学校ですることが恥ずかしいことだったんです。
磯:みんなそうですよ。
黒:今は違うんですよ!教育実習で子供たちを引きつけようと思って「実は僕はね、子供の頃トイレに行きたかったんだけど、できなくてすごい困ったんだ」っていうような話を延々してたら、子供たち全然ピンときてない顔してるんですよ。堂々とトイレ行ってうんこしてるんです。
磯:さすがゆとり世代ですね。僕等のころは人非人扱いでしたよね。
黒:あだ名変わりますからね。
磯:上から水をかけたり、ドアをガンガン叩いたり。執拗に追い込んでましたよ。
黒:その苦しみを漫画にしました。時が止まって俺だけ動けたら、という。
磯:切実だなぁ(笑)。今の子は違うんですね?
黒:今の子は違うんです。
磯:すごい自由ですね~。革命が起こったんですね、どっかしらで。
黒:そうなんですよ。その漫画は今でも読めるかなと。
磯:エバーグリーンな。
黒:(笑)エバーグリーンな。
磯:でもやっぱりみんなマンガ描いてるんですね。どの世代もそうなんですかね?人生ってマンガ家になる夢に挫折してから始まると思うんですよ。子供の夢ってスポーツ選手かマンガ家でしょう。文系は大体マンガ家。
黒:そうですか?周りに全然いなかったですよ?
磯:こうやって会うじゃないですか。一定数絶対いると思う。
黒:挫折はしてないですけどね。
磯:えっ!?マンガ家になれてないじゃないですか。そうなると話が違って来ますよ。
黒:挫折したのは棋士です。
磯:きし?将棋?
黒:将棋の棋士になるのを挫折したんです。
磯:黒岡さんの場合は将棋が終わって、人生が始まったんですねぇ。
音楽
黒:磯部さんがヒップ・ホップに興味をもたれたのはいつからなんですか?
磯:もともとはクラブミュージックだとテクノとかのほうが好きで、ヒップホップ出身のライターって思われてることが多いんですけど、00年代前半に集中的に描いてたって感じかな。それも「狂ってる人が見たい」みたいなところがあったのかも。自分がそういう人間じゃないから。
黒:不良だけど?
磯:いや、僕は全然不良じゃないですよ。むしろ観察している側の人間です。子供の頃、幕張の海岸沿いの一直線の道路で走り屋がレースをやるのを観に行くのが好きだったんです。非日常感を体験したい、自分と違う人間と接したいという欲望。で、その延長線で悪いひとがいそうなイベントに行くとなると、必然的にヒップホップになるんですね。でも3、4年前、突然、フォークを聞き出して。弾き語りって不良っぽさがないから興味がなかったんですけど、エゴが強いところとか、フォーマットが決まってるところとか、歌詞を重視するところとか、ラッパーと近いなって。それで、前野くんとか三輪くんとか、その辺りのシーンに深入りするようになった。ホライズンもその流れで聴くようになりましたね。だから他のホライズンのお客さんとはコースがちょっと違うと思います。
黒:僕も学生の頃クラブに連れて行ってもらった想い出がありますが……そのころは人のライブで必ずステージに上がるってことを目標としてまして、クラブイベントで外タレのステージに上がって、黒人の人に怒られたり。アーティストに親指を立てられて「good!」みたいなこともあったり。何回も上がりましたね。
磯:普通に迷惑ですね。坂口恭平も同じようなこと言ってましたけど。それまでバンドはやってなかったんですか?
黒:バンドはやってなかったです。大学一年の時に伴瀬と知り合って曲は作ってたんですが。音楽のスタートとして覚えているのは、ワイト島のフェスを高校三年生の時にBSでやってるのを観て、もうそれはそれは、しびれちゃって。
磯:なんでいきなりワイト島?
黒:ウチの親が好きでして。ディラン2とか加川良さんとか憂歌団とかが好きで。
磯:素晴らしいですねー。
黒:BSの音楽の特集は必ず録画してたので、それで勉強して買い漁って。それで音楽の裾野は広がりましたね。
磯:自分は家に音楽があるっていう環境ではなかったんで、羨ましいですね。でも、最近の若いミュージシャンってそういうひとが多い。ラッパーだとS.L.A.C.K.とか。歌ものだとceroとか、スカートの澤部くんとかもそうですよね。
小田晶房(以下 小):SAKEROCKも全員そうですよ。
黒:そうなんだ。
磯:親の聴いてるものなんてダサイから逆の方に行くって時代じゃないんですね。親御さんにホライズンを聴かせたりしないんですか?
黒:たまーにライブに来ますよ。厳しい意見を言われます。
磯:厳しいんだ?
黒:結構だめだしを、嫁に言ってます、嫁さんも音楽好きなんで。僕には言ってこないです。
『りぼん』と『期待』
磯:ホライズンの新しいアルバム(『りぼん』)、すごい面白くてずっと聴いてるんですけど。実に日本っぽいバンドだなぁと思う反面、「日本語がわからなかったらもっと面白いだろうな」と思うところがあって、時々耳を『日本語がわからないモード』にして聴いているんです。そうすると余計面白くて。逆に言うとホライズンの歌詞ってそれだけ強いってことだし、同時に日本語が分からないひとにも通じるワールドワイドな魅力があるバンドだなぁと。
黒:日本っぽいっていうのはどういうところから?
磯:シュールって言われがちだと思うんですけど、僕はそうは思わないんですよね。むしろ、日本の風土に根差した表現だからよく分かる。
黒:それは単に日本語で歌ってるからってわけではなくて、ですよね?
磯:日本語でやっててもそう思わない音楽もありますからね。ホライズンはすごい、歌詞が耳に入ってくるなと。
黒:それは面白いですね。
磯:歌詞って表現をする上でどんな比重で扱ってるんですか?
黒:重要さの比重ですか?全部の曲ではないですけど、歌詞は僕が書いてることが多いのでそういう意味では比重が高いですね。絶対使わない言葉とか、使いたい並びとか。
磯:ライブと音源ではまた印象が違いますよね。ライブのほうが普通に渋い、ブリティッシュ・ブルース・ロック・バンドみたいな格好よさがある。
黒:ライブの音に関して言えば、攻撃的な部分があったり、音楽の展開の仕方とかは普通って言えないかもしれないですけど、編成もそうだしロックバンド的な部分は多大にあるかなと。『りぼん』でようやく4人の歩調が揃ったんですよね。みんなの意識が同じとこになって足並みが揃ったというか。ここらでまじめにやろうと。
磯:いままではまじめにやってなかったんですか?
黒:やってたんですけど、もっと自分勝手だったんですよね。今回は4人で話し合ったり、時間もかけたし。
磯:だから、もっとサウンドとして楽しみたいんですけど、どうしても歌詞に耳が行ってしまうので、これが日本語じゃなかったらって思ってしまうようなところがあって。知らない国の知らない音楽としてたまたま出くわしたなら最高なのになって。そういえば、僕、ホライズンが注目されるきっかけになった『期待』のPVがあまり好きじゃないんですよ。スパイク・ジョーンズが撮ったファットボーイ・スリムの「プレイズ・ユー」の引用って分かるから。でも音だけ聴くとオリジナルだなと思ったり。だから全体的にもっと振り切って欲しい。
黒:最近言われますね。円盤の田口さんとかに言われるんですけど。
磯:TOIROCKのアンコールで「期待」をやって、お客さんとPVと同じように踊ったりとか、如何にも予定調和って感じで嫌だなーって思いました。むしろ、ホライズンはあの会場にいる人たちをおいてけぼりにするようなパフォーマンスをするべきなんじゃないか。
黒:もともと振り切り100%バンドだったんです。毎回新曲で、「あの曲やってよ」って言われても絶対やんなかったんですね。でもそれだと誰もついて来れないんですよ。そういうのもあったりして……踊るっていうのもなんでああいうふうになったのか不思議なんですけどね。たまたまの偶然がつながってああなったんですけど……振り切りたいっていうのはありますよね。
磯:あの時のライヴの本編は良かったんで、あそこで『期待』をやらずに終わった方がいいんじゃないかと思いましたけど。
黒:その振り切り方をどうしようかなって思ってます。
磯:だから、アルバムに『期待』が入ってないのはすごいよかったと思います。
黒:入れないようにしようって、そのぶんシングルで出そうってことになったんですけど。アルバムで「あれっ?」ってなるように。全然違う質感だと思ってるんで。
「人生を棒に振るべし」
磯:4人共色々なことをやってますけど、それぞれ活動のメインはホライズンって考えてるんですか?
黒: 最初は黒岡と伴瀬で生まれたものを一緒にやってくれ、ってとこもあったんですけど、最近は4人でやってますね。僕の中ではずっとホライズンの比重は大きいですけど。
磯:ビーフハートとかマザーズっぽいってよく言われると思うんですけど、それってどっちも絶対的なリーダーがいて、それによってメンバーが狂気の状態になってサウンドにも表れるっていうタイプのバンドじゃないですか。でも傍から見るとホライズンは民主主義的だし、仲良さそう。それにも関わらずサウンド面では狂気を目指すのって、逆説的な言い方だけど不健康にならざるを得ないのかなと。今までは黒岡さんと伴瀬さんの中でテキトーにやってたからこそ狂気を孕んでたんだけど、今はちゃんと4人でバンドをやってる。それをずっと続けると結局は普通になってしまうんじゃないか。
黒:僕もあんまり健全なのが好きじゃない。4人ともそれぞれの狂気を持ってるんですよ。
磯:でも4人とも狂気を持ってバンドをやるのって、健全なことだと思うんですよ。ビーフハートもマザーズも一人狂った人がいて、無理矢理つきあわされてるからこそ狂気的なサウンドになる。
黒:そういう部分があったりもするんですけどね。狂気がお客さんに受け入れられれば……。バンドの運営として、金とか人気のことを考えなくてはいけなくてですね……。
磯:今この段階で考えることじゃないでしょ(笑)。
黒:でもいろんなとこで金がかかってくるじゃないですか。
磯:ホライズンは絶対人生を棒に振った方がいいと思いますよ。全員で一ヶ月くらい山ごもりしたらどうですか?次のアルバムで立てるべきコンセプトは、楽曲に対するコンセプトじゃなくて、生活に対するコンセプトだと思うんですよ。
黒:生活に関するコンセプト(メモする)。
磯:そういうとこ真面目ですよね(笑)。ライフスタイルのコンセプトを徹底することによって、新しい段階の狂気に進むような気がするんです。
黒:赤軍みたいな?
磯:そうそう連合赤軍的な。一ヶ月とか限定された時間でもいいので。
黒:山から降りて来た時に一枚だけマスタリングのCDを持って。
磯:血だらけの。黒岡さんひとりで。何があったんだっていう。
黒:いいですね。あんまり考えなくていいこと考えてる部分もあるなって思うんですけどね。なんとなく皮膚感覚としてこれ違うなーとか予定調和とか、これはホライズンじゃないなってとこはあるんですけどね。盛り上げたいって思っちゃたりするんですよね。
磯:いいアルバムだと思いましたけどね、すごく。
黒:『りぼん』に関してはそういう、迎合したような部分はないと思います。
磯:もちろんもちろん。
黒:次どうなるか怖いですね。
磯:「なんなんだろうこの人たちは?人を殺したことがあるんじゃないか?」とか聴いていて思ってしまうような、そういう音楽が今の日本には足りない気がするんです。
黒:ああ、昔の外道とかですか。
磯:僕がヒッポホップを好きなのも、「なんか怖そう」とか「このひとクスリとかやってんじゃないか?」みたいなイメージって、ちょっとしたファンタジー生むじゃないですか。
黒:はい、はい。俺が最初に磯部さんに思ってた印象ですね。
磯:いやいや(笑)。そういうのが日本のインディ・ロックには足りない感じも。その点、ホライズンは久々に訳わかんない人たちが出てきたなぁって感じで、すごい好きですよ。
倉林哲也という人
磯:倉林くんは本当にマズい人ですよね。
黒:まずいっすね、あれは。
磯:結構……キテるなと。
黒:僕は天才って呼んでるんですけど。トチ狂ってますね。
磯:天然とも違うじゃないですか。
黒:天然じゃない、狂気ですね。あれがいるから面白いんですよね。
磯:事件を起こした後に「いい人だったんだけどねぇ」って言われるタイプではないじゃないですか。「やっぱりね……」って言われるタイプ。ラッパーとは違ったベクトルで怖いっていうか。
黒:あの人だけですよ。練習とかリハーサルと、本番が全然違いますもん。音の大きさが全然違う。
磯:あの人がジャストに叩くスネア、すごいですよね。まず音がデカい。
黒:でかいですよね。
磯:なんか打ち込みっぽくて好きなんですよ。
黒:バンドがいい感じになってるというか、全員がストイックにやってると倉林も「あっ」て来て、そうなるとバンドのマジカルが出るんです。
磯:黒岡さんもそういうイメージだったんですけど、今日話してみて分かったのは、実は常識人ですね。
黒:常識……。もう一回最初からやります?
一同:笑
黒:トチ狂ったふうにも出来るんですけどね。
磯:ベースは常識人なんだと思いますよ。それが悪いとかじゃなくて。べつにトチ狂った演技をしてもしょうがないですから。逆に、ちゃんと家庭を持って固い仕事をしながらああいうバンドをやってるっていうところに狂気を感じるんです。
黒:チャンネルがあるって感じですね。
磯:ホライズンはこれからどうしたいんですか?
黒:うーん。誰もまだやってないことをやりたいですね、独自の。狂気を孕むかどうかは別として、どんどん健全な方向に行ってますからね。バンドマンてちょっと怖いとか頭おかしいとかありますけど、「ちょっと違うな」って思われるような。
磯:人を殺してみるとか?
黒:そうですね……。人じゃちょっと。
磯:活動休止しなくちゃいけなくなりますからね。
黒:うーん、コロス、、、何ころす?
磯:何殺す?(笑)
黒:……。
磯:音楽でね、殺せばいいと思うんですけど。まとまった。
小:笑。
セルアウトとポピュラリティ
小:磯部さんはセルアウトってどう思いますか?黒岡さんは今セルアウトっていうものを考えてると思うんです。
黒:その前にセルアウトっていうのはどういうことか教えてください。
磯:売れるために魂を売る的な?
黒:あー。
磯:でも、セルアウトっていうのは他人の判断ですからね、「あいつら変わっちゃったな~」っていう。あるいは制作側がそうさせるとか。本人に訊くと「おれは変ってない」って言い張るだろうし、自ら「よし、セルアウトしよう!」って考えるひとってあまりいないんじゃないかな。例えばどんなものがあります?
小:ヒップホップは判りやすかったですよね。
磯:ああ、急に女性ボーカル入れたり。ヒップホップの場合は売れたもの勝ち、みたいな理念があるから悪びれないひとが多いですよね。
小:セルアウトって言うのも、黒岡さんの場合もっと「立ち位置」的な、今まで狂気で線を引いてた部分があったんだけどその部分をやめて手をつなごうとしてる、そういう位の意味なんですけどね。でも磯部さんは「手をつなぐな」と。
磯:はい、はい。さっきの『期待』の話はそういうことかな。
小:でも黒岡さんは手をつなぎたいみたいな。そこが今一番面白い。葛藤が面白いんですけどね。
磯:100万人とつなぐならわかるんだけど、100人とつなぐのって意味あるの?って感じしますけど。
黒:売れようって思ってるんで、色んなやり方でやってんですけど。
磯:何をもって「売れる」とするかですよね。売れることより長くやることのほうが重要だと思うから。1枚のアルバムを何枚売るかじゃなくて、1生かけて何枚つくって何枚売るかっていうか。それか、黒岡さんがイアン・カーティスとかカート・コバーンとかのように自殺するみたいな、先のことは考えない破滅的な生き方もありだと思うんですけど、そうじゃないなら、淡々と面白いものをつくり続ける方がいいと思うんですよね。
黒:自分の人生にとって必要なのはそうですね。
小:えーっ。そっち側に行っちゃうの(笑)?
磯:でも、ホライズンは10年後、絶対REMみたいになってると思うんですよ。
一同:笑
黒:マズイじゃないですかそれ。かっこわるいじゃないですか!
磯:そうですか?いいじゃないですか。普通っぽいんだけどよく分からない曲を延々つくり続るっていう。個人的には尖った部分がなくなったホライズンを観てみたいですけど。
小:倉林くんからトゲが一切なくなる(笑)。
磯:そうなった時は倉林くんは脱退してると思います。
一同:(笑)そうですね!
小:料理で一代をなして。でも、手はつなぎたいんですか?
黒:僕が好きな人はつながない人なんですけど、手をつないだ時って……ラクなんですよね。みんなで盛り上がってる時って。
小:カタルシスがある?
黒:ある程度の安息感みたいなのもあるんですよね。盛り上がってないライブってずーっとやってたんですけど、全然ついてこないんですよね、誰も彼もが。
小:磯部くんも田口くんも俺も同じだと思うんだけど、そういうカタルシスではないのに「ワー!」ってなるものが、この先あるような気がするっていうとこに期待してるんだと思う。他のバンドのようなわかりやすいカタルシスを用いずとも、ホライズンならできるんじゃないか。
磯:あとプチブレイクみたいなものにはもう飽きたんですよね。ちょっとした名盤をつくって人気が出て、そこで終わってという例をいっぱい見てるから。だったら異質な方へ異質な方へ進んでったほうが面白いんじゃないかなって。
小:でも黒岡さんがこずるいことを考えてる、っていうのも見てみたいし。その葛藤が俺は好きなんですよ。
黒:まあ人間的なんですよね。
小:(笑)それが好きなんですよ。
黒:戦略が上手い人もいるし、俺にもできるかなって考えた時期があったんですけど、ちょっと打算的なことが入るとダメなんです。しっくりしなくて、戦略は無理だと(笑)。
磯:でも今回のアルバムは全く戦略的要素はないじゃないですか。
黒:まあ、4人だとできないんで……。
小:音楽とそれは別なんでしょ?
黒:別なんです。手をつなぐのも勝手に僕がやろうとしてるだけなんで。
小:今日はそれを「どうしたらいいんでしょうか」って磯部くんに訊くって会なのかと勝手に思ってたんですけど。
磯:ホライズンがこんなにやる気を出してるって状態が珍しいんじゃないですか?今までプロモーションってアルバムを出すたびやってたわけじゃないでしょ?
黒:そうですね。
磯:ホライズンは小田さんのアウトサイダー本(『ソングス・イン・ザ・キー・オブ・Z/アウトサイダー・ミュージックの巨大なる宇宙』小田晶房が編集)の、何処か一章に出て来て、「へぇ、昔、こんなバンドいたんだ」って中古盤屋に探しに行ったら、フライヤーが置いてあって、「まだやってたのか!」っていう、そんなバンドになって欲しい。
小:そういうのを求めてる部分はありますよね。
黒:そうなってくると……今までのプロモーション全部消さなきゃいけないですね。
磯:そんなことないですよ。あれに出てくる人たちも一生懸命プロモーションをやったりしてるんですよ。第一、ひとに聴いて欲しいからレコードにしてるんだし、完全なアウトサイダーとはまた別。
小:セルアウトとポピュラリティの違いってあるじゃないですか。変なものでもポピュラリティを持つことってある。たとえばエルビス・プレスリーだってオカシイ存在じゃないですか。長島茂雄もキチガイだけど皆好き。狂ってるものでもポピュラリティは持ち得るって思ってるんです。それはセルアウトと意味が違う。ホライズンはそういう意味でのポピュラリティは得ることが出来るんではないかと。
黒:長島さんにしてもエルビスにしても、周りの力ってありますか?
小:エルビスは大きな勘違いですよね。カントリーあがりなのに白人が黒人のとこでレコーディングして変な声で変な音楽作ったらアメリカで一番ヒットした。受け入れる文化があったんでしょうね。
黒:何か人間が求めていたものをエルビスが出したんですね。その時代に。
小:時代もあるでしょうね、タイミングと。
黒:何か言おうと…………あ、魂は売ってない!ってのを言おうと。
磯:分かってますよ(笑)。そもそも魂がどこにあるのか分からないのがホライズンですから。
黒:見つけに行きます。
一同:笑
漂流教室
小:倉林くんて自分のことしか考えてないじゃないですか。他の人のことなんか考えてないのに、でも話してるとわかるのは、ホライズンはすごい大事なんですよ。
黒:多分この4人だからですよ。不思議なんですけど。
小:自分の生活10分の10自分のためだけど、ある部分はホライズンのために分けてあるんですよ。
磯:そういう人がホライズンに対しては愛を持ってるっていうのが、不思議ですね。
黒:不思議なんですよね。4人集まると何か起こるんですよね。仲がいいというわけでもないんだけど。
小:倉林くんは人には興味持ってないですからね。人には興味持ってないけどホライズンには持ってるんでしょうね。自己実現の一つなのかもしれないけど。
黒:自己実現でもいいんですよ、ま。メンバーみんなそうでしょうけど。要するに自分のことしか考えない倉林が何故ホライズンに、所属しているかってことですかね?
小:何かを期待してるんです、ホライズンに。他人に興味のない男が唯一。でもその「何か」が何かわからないんですよね。その「何か」が鍵なんではないかと。
磯:今話を聞いてたら、やっぱり、ビーフハートやマザーズのような独裁者的な狂気ではなく、ホライズンの場合はその民主主義的な狂気が新しいのかなって思えてきましたね。おかしいけど優しいひとだけの国、みたいな(笑)。なんか楽しそうだもんね。倉林くんもあんな狂ってるのに排除されず、それこそ黒岡さんが先生やってた時の目線で、異質なものとして扱わず、ちゃんと包摂しているじゃないですか。
小:ああ、普通に受け入れてる。
磯:しかも変なところを伸ばそうともしてなくて、アウトサイダー的な扱いもしてなくて、ただ普通の仲間として扱ってそれがちゃんとグルーヴになってるっていう。
黒:長く同じ釜のメシを食ってきたっていうのもあると思うんですけど。特別扱いしないで、ただ一緒にいる。なんか……学校みたいですね。
磯:それはそうかも。
小:それかも!
磯:狂った民主主義みたいな。
小:「狂った民主主義」。それいいなあ。
磯:狂ったバンドっていっぱいあるけど、だいたい崩壊にむかってくじゃないですか。
小:壊れることが前提ですよね。
磯:狂ってるけど日常感があるっていうのがホライズンぽい。
黒:で、学校だから、もう休みたくても行かなきゃいけないんです。
磯:小学校ってそうですもんね。多動性の子もガリ勉の子も一緒にいる。
黒:学校の中でグループを作らなきゃいけなくて、グループの中で何かやりなさいって決められてて、好きでもないけどやってる。
小:でもやってる内に楽しくなってくる。
磯:最初は授業で組まされた仲間だったけど、だんだんよくなって来る。まとまりましたね。
小:とんちれこーどは小学校みたいなもんで、ホライズンはその中のグループ。
黒:これからも一緒にやって行かなきゃいけないっていうのが決まってて。だから倉林も自分の中の割合が決まってて。それでやっていかなきゃいけないんです。「次の発表会どうしようか?」って。
磯:そう考えるとホライズンに新しい民主主義のカタチがあるような気がするなー。みんなバラバラだけど普通に付き合っていくっていう。
黒:これはしっくりきますね。
磯:今日話して発見だったのは、黒岡さんは実はバランスをとる真面目な人なんだなって。ホライズンの謎がとけた気がします。
小:謎とかれちゃダメなんでしょ(笑)?
黒:そういうわけでもないんですけど……うーん。
磯:いいと思いますよ。漂流教室みたいな感じでしょ?
黒:漂流教室。もらいましょう(メモ)。

磯部涼(いそべりょう)
音楽ライター。78年、千葉県生まれ。96年より執筆を開始。主に日本のクラブ・ミュージック、インディ・ロックについて書いてきた。著作に、過去のテキストをまとめた『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』(04年/太田出版)、『音楽が終わって、人生が始まる』(12年/アスペクト)がある。他にも3.11以後の音楽についてのルポルタージュ『プロジェクトFUKUSHIMA! 2011/3.11-8.15 いま文化に何ができるか』(11年/K&B)等。9月末、編著者を務めた『踊ってはいけない国、日本 風営法問題と過剰規制される社会』(12年/河出書房新社)が刊行された。

(TEXT:とんちれこーど)