INTERVIEW

倉林哲也×阿部共成

アルバム発売記念としてホライズン山下宅配便メンバーがそれぞれに対談をしてみましたシリーズ始まります。まず最初はいまやホライズン第5のメンバーといえる、アルバム『りぼん』のミックス/マスタリングをしてくれたエンジニアの阿部共成さんに、ホライズンドラム担当倉林哲也とおはなししていただきました。『りぼん』のミックス作業をしていた場所でもある虎茶屋にて、第6のメンバーうにさんが見守るなかほのぼのと、ミックスの想い出話、裏話など。お楽しみください!


阿部(以下 阿):りぼんはツアーで販売始めたんですよね?
倉林(以下 倉):はい。結構売れてたんですよね?
●そうですねえ。結構、買っていただきましたね。
阿:内容の評判もよろしいという噂をききます。
倉:自分たちはよくわかんないですね。
阿:実は僕ももう、よくわかんないですね(笑)。

●今回阿部くんにミックスとマスタリング両方を引き受けていただいたんですが、ホライズンと阿部くんの出逢いというか、仕事をお願いした経緯など教えていただけますか。
阿:では僕から。前にあだち麗三郎さんと黒岡さんがやってる『あだくろ』で、突然あだちさんから「マスタリングだけお願いします」って依頼がきて超特急でやったんですけど。その後完成品を聴いた黒岡さんが「マスタリングだけでこんなに変わるんだ」って話をしてて。そこから時期があくんですけども、去年(2011年)の8月くらいかな、黒岡さんに会って「シングルとアルバムを同時に作ってて、どうするかまだ決めてないけどお願いするかもしれません」と。シングルは松石(ゲル)さんがやってらっしゃって、アルバムはシングルと違うようにしたいということで、僕に。
倉:黒岡さんが阿部くんに頼んでるってことはなんとなく前からきいてて、その話をしてから実際とりかかるまでの間が半年くらいありましたね。
阿:ありましたね。録音が難航してたみたいですよね。
倉:そうですね。最初の録音でベーシックのギターとベースとドラムを録ってからだいぶ寝かせましたね。何回か自分たちでミックスしてたんですけど、なんかあんまりぱっとしないなあと。もともと俺がミックスをやったら、素朴な感じが好きだから、曲によってこうだからこうにしたいというのはなくて。まあ質素なかんじが好きと言うか、曲調がどうであれミックスはそれでいこうかなっていう感じで今までやってたんですけど。それまでのアルバムまではほとんど俺がミックスしてたので。
阿:『Hoca』まで?
倉:『Hoca』もかるくやってはいるんですけど。ほかの人の意見はきいてなかったですね(笑)。
阿:でもそれが今までのホライズンの作品を特色づけてるなと思いました。独特の間のあけ方というか。音を詰めまくるんじゃなくて、空間をどう聴かせるかという印象が強かったです。

●この対談を読んでいただく方に向けて、ミックスとマスタリングの違いについて教えていただけますか。
倉:今回はそんなに違いないですよね。
阿:僕がミックスとマスタリングどっちもやる場合は、同時にやってしまうんですよね。ミックスが終わる頃にはマスタリングもほぼ終わってる。並べて聴いた時におかしくないかってチェックして調整はするんですけど。今回の場合は同時進行でした。
違いの話で言うとミックスは素材をコラージュしたり、絵で言うと塗ったり配置を考えたりっていう作業なんですけど、マスタリングっていうのは絵がある程度できてる状態で最後に額縁をつけるとか、どのキャンパスとか背景に組むか、という感じですね。このテーブル(茶)の上にコレを置くのか、白いテーブルにこれを置くのかというイメージで、コレそのものは変わらないけど全体の世界観がちょっと変わったりとか。極端にバーンて変わるわけではないんですよね。
●ミックスにかけた時間てどれくらいだったんですか?
阿:一ヶ月ちょっとくらいですかね。
倉:一回集まったら夕方ぐらいから次の朝までとか、やってました。途中で脱落者が出たりして。
阿:だいたい黒岡さんでしたね(笑)。
●阿部くんは時給でお仕事受けてるとききますけど、ホライズンの作業量……。
阿:録音に関しては時給なんですけど、ミックスとマスタリングは一曲単位でもらってるので、ミックスマスタリングは何時間何百時間かかっても同じなんです。バンドによってかかる時間の違いはありますけど、それが前提の仕事だと思ってます。時間がかかるのはしょうがないっていうか、いいものができるのが僕は優先だなと。

●阿部くんとホライズン、5人でずっとミックスをやっていたということですが、ホライズン全員同じくらい意見は出し合って作ってるんですかね。
倉:そうですね。
●ホライズンとの作業はどうでしたか?
阿:面白いですね。だいたいバンドでよくあるのは、特定の人がこうしたいああしたいって決めてくってやり方なんですけど、ホライズンは4人とも自分の持ってる世界観っていうのがあって。だけど同時にみんなが持ってる世界観もどうなってるかってのを見計らいながら、それがうまく回ってるっていうか。最終的にうまく集約してどういうふうな絵を描くかという点で、みなさん賢いなと思いました。
●意見割れたりしなかったですか?
倉:割れたりしたり……あと黒岡さんが勝手に歌を録り直してきたり……(笑)。
阿:そういうことに対してただそれを受け入れるんじゃなくて「じゃあこうならばこうしたほうがいい」とか「こうなったらこれはいいかもしれませんね」っていう提案の仕方が、みなさんうまくて。だめならだめで納得させるっていうのも、ちゃんとできてる。
倉:黒岡さんなんか特に、今までミックスとかそんなに意識してなかったのに、今回色々聴き始めたら「ここも気になってきて」みたいな。
阿:しまいには「ピッチが」とか言い出して(笑)。※ピッチ=音高
倉:黒岡さんにはあんまり考える機会を与えないようにした方がいいと思うんですよ。できたのを聴かせて「いいじゃん」てそれで終わりにしたほうがいいんですよ。意見言わせたら、ピッチ気になるわけじゃないですか。この音が小さいとか大きいとか気になってきたら、「自分の声がおかしい」ってことになるじゃないですか。
一同:笑
倉:そういう思考を持たせないってことが大事です。
阿:黒岡さん、自分でプレイバックして「ひどいなー」とか言ってるんですけど、どの段階でそう思ってるのか不思議なんですよね。実は『イカレコン(マタヒラ)』はピッチを結構いじくってたりするんですよ。あれは歌うのが難しい曲なんですけど。
倉:一音ぐらい上げてるとこあるんです。
●えーっ。
阿:サビであきらかにおかしいって音があるんですよ。最初それを意図してたわけじゃなくて、ピッチを直してる時に伴瀬さんが「どうしても一音ぐらい上げたい」って。それほんとはやり過ぎで、加工の仕方としてはアウトなんですけど。悪いピッチなんだけど、悪いなりの「良い加減」を作るっていう難しい作業で、伴瀬さんがバランスをうまく指示してくれました。で、一個だけおかしい音が出てくるんです、ボーカロイドみたいな声になってる。
●え~、そうなのかあ、気づきませんでした。
倉:あれも今きいても気にならないですね(笑)。
阿:最初は何回聴いてもおかしかった。意外と気にならなくなるもんなんですね。
倉:最初から変な歌い回ししてるからそれのほうが印象的なんでしょうね。
阿:調整するにしても曲まるまるってのはなくて、たとえば「あ」とか「い」とか部分的にちょっと上げたり下げたり。それも正しいとこに合わせるんじゃなくて、「ズレてるんだけどズレてない」とこに合わせる。黒岡さんのピッチを正しく直しちゃうと、コーラスは黒岡さんに合わせて録ってるから、気持ち悪い音になってしまう、音楽的じゃないというか。この作業は伴瀬さんがいなかったら難しかったですね。

●イヤだったこととかないですか?
阿:ないですね!全部が面白かったっていうか。黒岡さんは随時ライブの時みたいに、なんかよくわかんないことやってて(笑)。ミックスであんな笑ったの始めてですね。後ろからなんかいろいろ言ってるっていうのもあるんですけど、黒岡さんのボーカルの素材聴いてるだけで面白かったり(笑)。
倉:「何でこれOKテイクになったんだろう?」って話になったり(笑)。
阿:録り直したものを聴いたら歌いだしから外れてたりして、伴瀬さんが「何でこれを持って来たんだ?」って顔してて面白かったですね。
倉:プレスしてから初めて聴いたのがツアー中の車だったんですけど、結構楽しかったです。
阿:そうなったらいいなと思ってやってました。好きな曲とかありました?
倉:自分で作ってるけど『騎士』なんか「おっ」と思いますね。
阿:いいですね、たしかに。あれは家で録ったんですか?
倉:『騎士』は家で、『岸』(倉林以外の三部コーラス)は七針で。七針の録音の時はすごい適当にやってて、あんまりよくないなと……(笑)。
阿:『騎士』と『岸』でだいぶ違うなと思いました、素材の録音の感じが。
倉:まだ歌い馴れてなかったんですね。アルバムのために作った曲なので。ホーンも七針で同じ時に録ったんですけど、管隊はメンバーによっては初めて会う方もいたりするのに、ひとりずつ来てもらって「こうやって吹いてくれ」って言われてみなさん追いつめられた感じで録音してましたね(笑)。つらそうでした。
阿:そうなんですか。一斉じゃないんですね。
倉:『期待』のときは一斉にやったのでみんなのびのびしてるんですけどね。
阿:『イカレコン』も七針で?
倉:そうです。最初にオーボエを録って、クラリネットとペットが入って、そのあとに歌とチェロを重ねたんです。ピッチをどこに合わせたらいいのかわからなかった。ギターだけでも伴奏で入れといてあとで消したりすればもうちょっと録音しやすかったんですけどね。
阿:最初『イカレコン』がアルバムの代表曲みたいな話をきいてたんですが、実際そうだったんですか?
倉:いちおう今回の録音のメインとして、オーケストラサウンドの曲のもの、バンドサウンドじゃないものを集めてやったので、その代表として『イカレコン』だったんですけど。
阿:最悪外れるかもしれなかったんですよね?
倉:代表曲としてはちょっと混沌として曖昧な感じだったので。中途半端な状態では出したくないなと思ってたので。
阿:最初聴いて、「これどこにいくのかな?」と思ってたんです。着地点としてはどうでしたか?
倉:面白くなったんじゃないですか。前後が入って。
阿:他の曲には負けないようにしないといけないと思ってました。

●時間かかったとか、特に印象的な曲ってあります?
阿:僕の頭の中ではどの曲も色々ありすぎて……。『イカレコン』では夢でうなされましたけど(笑)。とっくにミックス終わってるのにあれはこうしなきゃああしなきゃって夢の中で。あと行方がわかんなかったのは『風呂(の歌)』。最悪外れるという話もありましたね。最初の録音だとシンプルで、それをどうするかって決まって無い状態でミックスを始めたんですけど、伴瀬さんが絵をえがいていって、ああなりました。
●実際はずれた曲ってあるんですか?
倉:ないです。結局全部入りました。
阿:12曲入りじゃなくなる場合もあったわけですね。でも尺、いいと思います。長さはこれくらいあったほうが、大作と言うか。レコードで言ったらA面とB面みたいな感じで。
倉:『オクリモノ』も最初入れるの迷ってました。ボーナストラックで何分後かに入れようとか。
阿:僕は怖いかんじというか、あやしいかんじで行こうと思ってて、けど一曲目になったっていう。
●このアルバムは「怖い」という感想も結構あるらしいです。一曲目のインパクトですかね。
倉:怖いと感じたら一曲目はとばしてもらって。それでも11曲も楽しめますから。

●『ガラスの階段』はシングルのを阿部くんがミックスしたものですね。
阿:シングルを一回聴いちゃってるので……。シンプルにいこうと。前の曲との路線で、ベーシックな感じで、あんまりうわものでグアングアンいくというよりは『コンドル(ととんでいく)』の流れでしっかりとさせようと。
倉:最後に入っておさまりがよくなりましたね。最初二、三曲目に入れる予定だったので。
●いい入れ方になりましたよね。
阿:曲順の話すると、最初ある程度ホライズンで決まってたんですよね?
倉:ある程度決まってました。
阿:八割方ミックス終わった段階でチェックするために一回データに落とす作業やったんですけど、その時僕がイメージした曲順でやってたら黒岡さんが「それで聴いてみましょう」って。
倉:それが結構採用されました。
阿:もともと想定してた順と変わってるわけですよね。
倉:そうです。その時にちょうど最初のを変えようかなって感じにもなってたんですよね。
阿:そういうこともあるんだなあと思いました。僕が適当に頭にあったイメージでやっただけなんですけど。

●ミックス中、倉林さんのごはんが出たんですか?
阿:何回かいただきました。一回目はごはん炊いていただいて……。
倉:鍋しましたね。
阿:あれはまかないですか?
倉:まかないでも鍋はしないです(笑)。
阿:あと、お昼にお弁当作っていただいて。
倉:あとパスタみたいなのも食べましたね。
阿:どれも逸品で、あれ普通にお金とれる食事で……。僕初めて料理に本人の意志を感じて「俺この料理にミックスで負けらんねえな」って。普通おいしいで済んじゃうんですけど、それを越えてるのにビックリして。「まだこの料理にまけてるな」って。
●スゴイいい話じゃないですか……。
倉:なんだったんでしょうね。

阿部共成(あべともなり)
都内在住。
都内某スタジオに勤めた後、個人業務の録音編集技術者として活動。
レコーディング / ミキシング / マスタリング等の録音編集業務のほか、映像作品等の音声収録、編集の依頼も受け付けている。バンド「swimmingpoo1」に参加。
阿部音工 http://abeonkou.com/

(TEXT:とんちれこーど)